保守点検

【エレベーターメンテナンス】もしもワイヤーが切れたら?「絶対落ちない」仕組みの話

「もしエレベーターのワイヤーが切れたら、かごは落ちてしまうのですか?」
エレベーターメンテナンスの仕事をしていると、この質問をいただくことがあります。
映画やドラマでは、ワイヤーロープが次々と切れ、エレベーターが真っ逆さまに落下するシーンが描かれることがあります。
そのため、「エレベーター=ワイヤー一本で吊られている」というイメージを持たれている方も少なくありません。しかし、実際のエレベーターは、そのような単純な構造ではありません。

まず知っていただきたいのは、エレベーターは一本のワイヤーロープで吊られているわけではないということです。
一般的なロープ式エレベーターでは、複数本(3本~5本)のワイヤーロープでかごを支えています。しかも、それぞれのロープには十分な強度があり、通常の運転で必要となる荷重よりも大きな安全率を見込んで設計されています。

さらに定期的な保守点検では、エレベーターメンテナンス技術員がロープの摩耗や錆、素線切れ、伸びなどを定期的に確認し、交換時期を見極めています。
つまり、「突然すべてのロープが一斉に切れる」という状況は、現実には天災などを含めたとしても極めて起こりにくいように設計・管理されているのです。

それでも、万が一を考えているのがエレベーターです。
仮に異常な速度でかごが下降した場合には、「非常止め装置(安全装置)」が作動します。

これはエレベーターに備えられた重要な安全装置で、かごが一定以上の速度になると作動し、ガイドレールを強力につかんで停止させる仕組みです。例えるなら、自動車のブレーキとは別に備えられた「最後の命綱」のような存在です。
さらに、この安全装置を動かすために「調速機(ガバナーマシン)」という装置も設けられています。調速機は、エレベーターの速度を常に監視し、異常な速度を検知すると安全装置へ作動を指示します。つまり、エレベーターには安全装置だけではなく、それを動かすための監視役まで備わっているのです。

このように何重もの安全対策が組み合わさり、一つが故障してもすぐに重大事故につながらないよう考えられています。

これをエレベーターを含む技術の世界では「多重安全」や「フェイルセーフ」という考え方といいます。
私たちエレベーターメンテナンス技術者の仕事は、これらの安全装置が付いていることを確認するだけではありません。

「いざという時に確実に動く状態か」を確認することが重要です。
技術者として大切にしている考えがあります。
それは、「安全とは、装置だけでは完成しない」ということです。
どれほど優れた安全装置があっても、適切な点検や整備が行われなければ、本来の性能を発揮できません。反対に、日頃から丁寧な保守が行われていれば、小さな異常を早い段階で発見し、大きなトラブルを未然に防ぐことができます。

エレベーターの安全は、設計・製造・設置・検査・保守管理、そのすべてがつながって初めて成り立っているのです。

利用者の皆さまが何気なく乗っているその数十秒の移動は、見えないところで数多くの安全技術と、私たちエレベーターメンテナンス技術員の日々の点検によって支えられているのです。

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